映画「万引き家族」を観たとき、「泥の河」という古い映画に似ているな、と思いました。手品のシーンがあるからなのか、通底を流れるテーマが共通なのか、確かめようとTSUTAYAで探しましたが、古い映画なので置いてありませんでした。
終戦からまだ10年ほどしか経っていない大阪を舞台に、うどん屋夫婦の息子 信雄の前に、船上で暮らす別の家族が現れて、去っていくまでの話が描かれています。
昭和57年(1982年)、本作で、日本アカデミー賞の優秀助演女優賞を39歳で受賞した加賀まりこは、とても綺麗です。
「僕の家、あそこや。」
突然、少年が土佐堀川の彼方を指差したが、雨にかすんだ風景の奥には小さな橋の欄干がぼんやり起立しているだけだった。
「どこ?よう見えへんわ。」
少年は市電のレールを横切ると端建蔵橋の真ん中まで走っていった。信雄もあとを追った。
「あそこや。ほら、橋の下の、ほれ、あの舟や。」
目を凝らすと浅橋の下に、確かに一艘の舟が繋がれている。だが、信雄の目には橋げたに絡みついて汚物のようにも映った。
「あの舟や。」
「……ふうん、舟に住んでんの?」
「そや、もっと上におったんやけど、きのう、あそこに引っ越してきたんや。」
貞子が信雄の視線をめざとく察した。
「けったいな舟が引っ越してきたなあ……。」
晋平も窓ぎわに腰かけて、打ちつけてある板を外しながら言った。
「そやけど、風流な屋形船やないか。」
「電気や水道なんか、どないしてんねんやろなぁ……。」
昼近く、店が忙しくなってきたころ、信雄は両親に内緒で起き出すと、こっそり裏口から抜け出て、舟に家まで歩いていった。(原作 宮本輝 「橋のない川」より)